【番外・うちよそ】ある年の天城くんの誕生日のお話
『悪い。遅れそう。』
仕事の隙を見て急いで送ってきただろう短い文。間に合わないかもしれないという落胆よりもその気遣いが嬉しくて、なんだかにやけてしまう。
『大丈夫。予約の時間になっちゃうから、先にお店に向かってるね。』
お店のサイトのリンクと一緒にそう返信して、予約したとっておきのお店に向かった。
席は特等席だった。ここなら一番綺麗に見ることができる。
席を案内してくれたお兄さんに訝しまれなかったことに内心安堵した。こういう服は冬なら重ね着で体型をどうにか誤魔化せるけど、夏はそうもいかない。腕が隠れるものを選んだから多少はいいかもしれないが、見た目の部分でのカバーは立ち振る舞いでどうにかするしかなかった。
お店には若いカップルが多く、これから起こるイベントを心待ちにしながら甘い雰囲気を放っている。手を握り合いながら談笑する男女を羨ましく思った。晴彦と人前で堂々といちゃつくことはほとんどなかった。したくてもできなかった。でも誰にも気付かれないなら、許されるかもしれない。
「お客さま、お時間になりましたが料理はいかがしましょうか?」
「申し訳ございませんが、彼が来てからでも大丈夫ですか?」
「かしこまりました。」
スマートフォンの画面が光る。
『ごめん、今上がった。すぐ行く。』
待ちに待ったメッセージに心が躍った。もうすぐ彼がやってくる!晴彦のことだから、すぐ行くってことはすぐ来てくれる。
立ち上がって入り口の方を見ながら、不安が過ぎった。この格好、やっぱり変じゃないだろうか?嫌がられないかな?緊張で胸が苦しい。
見慣れた銀髪赤メッシュが見えてきた。どうしよう、顔が熱い。受付を通ってきた彼と目が合う。驚いているのが表情から伝わった。
「……ごめんな。遅れちまって。」
「全然、目的のやつには間に合ってるし。急いで来てくれたしさ。それより、えっと……」
「すっげえかわいい。びっくりした。」
その言葉だけで魔法にかかったみたいにさっきの不安がなくなって、心の中がキラキラとした光で溢れてくる。晴彦はちょっと照れているようで、その表情がとても可愛くてときめいた。ああ、もう。本当に大好きなんだよな。
ドン、と音がした。始まりの合図だ。
席に着くと、花火が空に咲き出した。バーカウンター越しに夜景と一緒に見える花火は格別で、祭りの時とは違った大人の雰囲気にドキドキする。
花火が一旦落ち着いたところで、バーテンダーが注文と取りに来た。オレはアフィニティ、晴彦はキールを頼んで、また咲き始めた花火を観る。しばらくして晴彦の見ると端正な顔立ちで花火に見入っていて、その横顔に引き込まれてしまった。
オレの視線に気付いた晴彦がこっちを見た。
「随分と熱い視線だな。」
「そりゃそんなカッコいい顔してるんだから、見入っちゃうって。」
「なんだそりゃ。」
オレだけに見せる優しく微笑み。これ以上ない幸福感に、今日2回目の言葉が口から溢れる。
「晴彦、誕生日おめでとう。出会えて本当によかった。」
今年もこの言葉を伝えられて、本当に幸せだ。また来年も、その先もずっと、晴彦の生に、出会えたことに感謝できることを、噛み締めながら祈っていた。
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Happy Birthday, Aug. 10th 2019!!
天城くん、誕生日おめでとう!今年もお祝いできてよかった!
天城くんと、天城くんを生んでくれたコウヤマに大きな感謝と愛を込めて!
だいぶ遅くなったけど、また一年、幸せな時間を過ごせますように。
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アフィニティ:カクテル言葉「触れ合いたい」
キール:カクテル言葉「最高のめぐり逢い / 陶酔」