お前の名前は
精霊が体よりもかなり大きい紫の花を引っ張っていた。
食べたいのか?と聞くと首を振った。精霊は花を指差してから、自身を指差す。つまり。
「この花はお前なの?」
嬉しそうに首を縦に振った!正解だ!
これは確か、前に希望が教えてくれたあの花に違いない。
「お前の名前はアイリスか!」
精霊、アイリスは笑い頷いてからオレの後ろに回った。そして背中に触れる。その瞬間、信じられないことが起こった。羽が生えたんだ。
「はっ!?はね!?」
動揺するオレを大笑いして、空へと向かった。するとそれを追おうとするように、動かしたこともない羽が羽ばたく。体が浮いた。
「……マジ?」
アイリスを目指してどんどん上昇していくオレの体。アイツがスピードを上げる度にジェットコースターのような感覚を味わい叫び声を上げる。それを見て嬉しそうに笑い、またスピードを上げて飛んでいく。もう無理。吐きそう。
「精霊さん、ストップストップ。」
風から師匠の声が聞こえて、ようやくアイリスが動きを止めた。オレには理解できない言葉でアイリスと師匠が話しているうちに、呼吸を整える。
「そっか、彼女の名前はわかったんだな。誠次。」
「は、はい……こんなことに、なるとは……思いませんでしたけど」
息を切らしながら答えると、2人して笑い出す。そんなに面白いか!ムッとして文句を言おうとしたが、師匠が手をパンと鳴らす音でそれは阻まれた。
「さてと、休憩は終わり!短剣を構えて。」
「えっオレ全然休めてないっスよ!」
「時間は有限だからな。休憩時間は変わらないぞ。さあ構えて!」
表情は見えないが、師匠の顔つきが変わったことはわかる。正直くたくただが、やってやるか!
「師匠、お願いします!」
空の中で小さな師匠に向けて、オレは短剣を構えた。
【3-1】お前の名前は / 成宮誠次