大衆の中の孤独
あの反乱で彩華のアジトから逃れたオレは、非現実的なあの空間から都会の街並みに放り出された。
そして約9年の時を経て、大きく変貌した世界を目の当たりにした。
歩いている人のほとんどが、前にシュルムが「携帯電話のすごいやつ」と説明していたスマートフォンを手にし、イヤホンは無線となり、買い物や移動にはカードを使うのが当たり前になっている。
オレの世界は10歳で止まったままだ。
買い物をしようにもお金がない。お風呂に入りたくても家がない。あの頃は全て親に頼りきっていたけれど、もう死んでしまったのだからどうしようもない。
オレは一人だと実感する。
弟と妹は今頃どうしているだろうか。きっと祖父母の元だろうか。会いたいけれど、会いたくない。殺人鬼と化した自分を見られたくない。怖がらせたくはない。
こんなにも人がいるのに、誰にも頼ることができない。
自分で自分のことを抱きしめて、どうにか正気を保とうとしているんだ。
【5-1】大衆の中の孤独 / 黒羽